【文豪@大いなる遺産を訪ねて倫敦に行って来たど】
小説を書く行為は一見、居眠りしてる猫を煉瓦の壁にして、土塁を作る作業に似てる。猫の体はいつもふにゃっとしてる。重力の魔法で、首から下が、だらしなくだらんと伸びている。僕達は頼りない土塁を銃弾の銃弾の衝撃を飲み込むささやかな衝撃吸収材しながら、次の時代に始まる銃火戦の準備をしてる。猫は相変わらず、何も知らずにだらしなく寝てるんだ。それはほとんど記憶する作業に近い。記憶は燃料で火薬で、弾倉で眠った猫の上の上にぽろんと載せた一瞬のバースト発火に過ぎない。フィリップ・マーロウならば、テリー・レノックスを叩き起こすところだ。
寝てるんじゃない。車が発進して女が逃げ出すぜ。突進しろ! そうだな、まずは、ドイツ兵の不発弾に突進してやれ。それで、気がつたら白髪の飲んだくれのニヒリストの後半生でも始めるといい。しかし、僕には確信があるんだけど、フィルはそれ程気の利いた猫ではない。それも事実だ。だって奴は猫だから。って言ったのは誰でしたっけ? え? 僕?
ああ、そうかもしらん。だって、フィリップ・マーロウは僕の家の家猫ちゃんの名前なんですよ、2011年の今時点では。ところで、フィリップ君以外にもこのところ、身辺に目の見えない化け猫のオンパレードが始まってるのが、何となく分かるんだけど、僕、肥前国佐賀藩の2代藩主でないので猫ちゃん達、僕に悪さしないでね。鍋島光茂は物理的に死んでるので、あっちのお家騒動の騒乱に土塁を作る手間にはちと手が回らないだ。第一、機関銃奏者がないとっても暢気なお家騒動だって聞いてるので、タイムスリップして来た場所が間違えてるんじゃないかな? やれやれ。(了)